中国人のブランド品爆買いの昔と今を業者目線から紐解いてみる

ここ最近都内の銀座を中心にあちこちに中国人が街を歩いている。10年前にはこんな光景みたことありませんでした。

そしてニュースでも取り上げられていた“中国人のブランド品爆買い”あれだけメディアで取り上げられていると、全くブランド物に興味がない方でも、中国人の方をはじめ多くの観光客の方が、日本でブランド物を買いに来ていると認知していると思います。

しかし1年前と今では状況が大幅に変わりました。夏前の少し古い記事ですが、ちょうど一年前と一年後の変化がうかがえる興味深い記事がありました。

上記のようにブランド品業界はここ一年で劇的な変化が起こっています。

実際に銀座で小売業をしている私が、ブランド品における中国人の爆買いのその理由や、現状を見て感じることなどを紐解いていこうと思います。

なぜ日本でブランド物を買うのか!?

いきなり話は逸れてしまいますが、元々中国人観光客は日本にブランド物を買いに来た訳ではありません。1番の目当ては電化製品でした。そのおまけという訳ではないですが延長線上にブランド品がありました。

ですが2012年~2015年の4年間で中国人観光客数は飛躍的に伸び、主に中古のブランド品が売れはじめました。

円安の影響で日本で売られるブランド品は安かった

ではなぜ日本なのか?というと1番の理由は「為替」です。当時中国人は自国で買うよりも、日本で買った方が断然安いことから、多くのブランド物を買いに中国人が観光に訪れていました。また私用で使うだけではなく、中国人観光客が日本で仕入れをして、中国で転売をする業者も増えました。

中国ではブランド物のコピー品が数多く出回っており、中国の一部のブティックでもコピー品が売られているという事例などもあり日本に安心感、信用がある点から日本にブランド物を買いにくるようになりました。

爆買いというのは個人の観光客だけでなく、ブランド品を転売業者(並行輸入業者も含む)を巻き込み起こっていたのです。

海外の相場が動く

中古ブランド業界への影響

いまでは数多くの中古ブランドショップがありますが、昔はこんなにありませんでした。もちろんそれも中国人観光客の影響を受けてです。中国人が日本でブランド品を買うようになってからは、とりあえず商品さえ陳列していれば、よほど汚いものでない限りは、どんな物でも売れました。

なのでこの中国人ブランド品の爆買いをきっかけに、バッグ・時計・ジュエリーなどの相場が上がったのも事実です。

1番影響のあったバッグはエルメスです。中古ブランド業界のなかでも圧倒的な高価格帯、高利益を生み出しました。ルイヴィトンやシャネルなども需要はありましたが、中国の富裕層たちはこのエルメスを求めに日本にやってくるようになります。

そしてロレックスへの影響は大きく、人気のなかったモデルでも、以前より相場価格が10%ほど増加しました。それによって、ロレックスで資産運用もしやすくなりました。

中古ブランド業界に革命をもたらしたバッグ

みなさんが知っている有名ブランド、「ルイヴィトン」や「シャネル」など、その他にもおしゃれでかっこいい・かわいいデザインのバッグはたくさんあります。

ですが観光客から群を抜いて人気があったバッグは、エルメスの「バーキン」と「ケリー」というバッグです。この2つは他のブランドバッグとは違う点が多々あります。

エルメスのバーキンとケリー

ブランドバッグと想像すると、高い、高級など様々なイメージがあります。だいたいのブランドバッグは平均10~30万円前後の価格帯に対して、このバーキン、ケリーは今現在定価で120~130万円(色、素材、サイズによって前後します。)中には1000万円近い定価で販売されているバーキン、ケリーもあります。

だけどいくらお金を持っていても買えないバッグ!?


実はエルメスのバーキン、ケリーはエルメスブティックに行ったとしても、すぐに購入できるバッグではありません。エルメスに通い、たくさんバッグや小物などを購入した顧客にのみ案内するバッグなんです。いくらお金もちだからといって、エルメスを購入した実績がなければNGです。

そして案内されたからといって、色や素材を自由に選ぶことはできません。「バーキン30のブラック(色)・トリヨンクレマンス(皮の素材)・シルバー金具(バッグの帯の先端についている金具の色)」のご案内などといった、指定された商品のみしか購入させてくれません。

このようにエルメスは他のブランドにはないような、独自のプレミア感を演出することによって、エルメスのバーキン、ケリーは中古ブランド業界では別格のバッグでした。

中古ブランド業界のバーキン、ケリーの仕入れから販売までの裏話


上でも紹介したように、基本的にバーキン、ケリーは一般では購入できるバッグではありません。ですが、銀座の中古ブランドショップに行くと数多くのバーキン、ケリーが並べられているのを目にします。その中でも新品、今年製造されているバーキンなども店頭に置かれています。

では仕入れはどこからおこなっているかというと、大半は中古ブランドショップが、顧客から直接買取にて仕入れをしています。

簡単に言うと.

まずはA客がエルメスブティックでバーキンを定価のおよそ130万円にて購入する

→中古ブランドショップが定価以上の150万円で買取する

→店頭に定価以上のプレミア価格200万円以上で販売する

→観光客(主に中国人)が購入する

これが当たり前の流れでした。
(※2016年10月現在では為替、需要の影響で定価以上の買取は難しくなっている)

まとめるとエルメスがもたらすプレミア感が、中国人の富裕層に受け、そうした需要が一斉に日本に向けられたというわけです。

香港の街並み

ブランド業界の現状

ブランド品業界はこうして、中国人の影響で潤っていました。実際にブランド品が飛ぶように売れて銀座のブティックや、百貨店の売上も伸びていましたが、今年に入ってからは影を潜めます。

中国人の爆買いは長くは続きませんでした。

2016年爆買い終わった理由とは

2015年まで都内百貨店、高級ブランドブティック、中古ブランドショップは商品が売れて売れてどこも在庫が少ない状況でした。またバッグをはじめ時計、ジュエリーを販売する高級ブランドの定価が一斉に値上がりしました。

それに伴い中古ブランドの相場も上がり、ブランドオークション市場での相場も高騰、もちろん消費者からのブランド買取価格も高くなりました。
(※この時期が一番中古ブランド品をとても高く売ることができました)

ですが2016年1月から「中国人爆買い」がなくなります。理由は先ほど記載した「為替の影響」と「中国政府の関税対策」です。

これは簡単に言うと、中国人が国外で年間に浪費できる金額が、政府により制限されてしまったということです。他にも中国人ブランド業者の脱税が厳しく問題視されたという点、為替の変動を含めた3つが同時期に重なってしまったことから、中国人爆買いは一斉に減少しました。

2~3年前はあれだけ中国人で賑わっていた百貨店、中古ブランド店も、今では土日でさえ静かなものです。

ブランド値下げの現状

実際に銀座で小売業をしている私はたまにお店に立っていて、2~3年前と現状を比べると賑やかさのかけらもないことを実感しています。あれだけ絶頂だったブランド品業界はどうなってしまうのかと不安を覚えるほどです。

そうした影響はブランド各社にも及んでいて、カルティエやヴァンクリーフ&アーペル率いる「リシュモングループ」は、リシュモン最高級時計「ランゲ&ゾーネ」以外のブランド品の定価を2016年8月5日から値下げしました。

具体的にどれだけ下げたかと言うと、日本人の女性から人気のある「タンクフランセーズSM」ステンレス製モデルで定価50万円前後だった価格が今では35万円前後までの値下げ。こうなると中古ブランド業界にも影響がでます。

以前同品は中古価格相場でだいたい「20~25万円前後」でした。ですが定価が下がったことから2016年10月現在では「18〜20万円」まで下がっています。もちろん、ブランド市場や店頭での買取も1~2割減です。

これはあくまでも一例にすぎず、もっと値段が低下しているブランド品もあります。それだけに中国人の需要がどれほど大きかったかがうかがえます。

今後のブランド業界の行き先

休日の銀座や新宿を見ていると、以前に比べて圧倒的にブランドのショッピングバッグを持っている方たちの数が減少している気がします。

毎日のように30件以上売れていたEC事業部も今では10件以下と売上も大幅減な状況です。業者目線から見ると、どれだけ中国人観光客がブランド業界を潤してきたのかを痛感しています。

2020年の東京オリンピックになれば、また多くの売上が見込めると皆が口にしています。しかしまずは今の売上の現状を見なければなりません。

値段を大幅に下げたりと、ターゲットを日本国内に向けることや、またはブランドイメージの再構築し、ブランド離れしている日本人に待ったをかけることなどといった大規模な対策を、業界全体で立てていかないと、今後のブランド業界はますます厳しいのではないかと内輪から感じています。

中国人の爆買いによってもたらされたものはたくさんありましたが、その資産は今はもう尽きようとしています。